第1日目 2014年7月19日(土)
※「公開基調講演」からは星陵会館が会場です。

公開基調講演

13:30~15:30

テーマ 「フルートとともに」
講師 宮本 明恭(NHK交響楽団々友・国立音楽大学名誉教授)
私の専門は、音楽です。小さい時から両親をはじめ、様々な方達から、専門的な教育を受けました。終戦の時、私は9歳で、小学校4年生でした。 私は今迄音楽以外の事柄に興味をもった事も熱中した事も有りません。しかし今回「音楽」そのものに就いての話をする積りはありません。 今迄、音楽そのものと懸命に生きてきましたが、周りの事柄を絶えず観察し、どんなに小さな事でも、よい物は積極的に自分の中に、取り入れて来ました。この姿勢は一貫していました。そして、気がついたら、自分なりの「生きるメトード」が出来あがっていました。 何かの参考になれば、とそんな事に就いてお話します。

公開シンポジウム1

15:45~18:15

テーマ 「遊戯療法を奏でる~精神と身体・リズム・メロディー~」
シンポジスト 安島 智子 (このはな児童学研究所)
  妙木 浩之 (東京国際大学)
  森岡 正芳 (神戸大学大学院 人間発達環境学研究科)
指定討論 滝口 俊子 (放送大学名誉教授)
  横山 知行 (新潟大学 人文社会・教育科学系)
司会 岡  昌之 (首都大学東京)

【遊戯療法と音楽】 安島 智子(このはな児童学研究所)
精神と身体は一つであり、その中から生み出される音楽は、精神世界が身体を通して外在化される活動過程と言えるかもしれない。 音楽はまた、時にイメージや言葉を伴う精神と身体の融合的創造活動とも言えるだろう。心の中に生まれた音楽は、リズムやメロディーとして作者に聴こえてくることもあるかもしれない。 意図的に作曲をするわけではないが、複雑な心の動きは身体の動きとなって重奏的に音楽を奏でようすることもあるかもしれない。口ずさみたくなったり、楽器を使って全身で表現したくなったり、時に楽譜にとどめたくなったりする。 遊戯療法家は、子どもの心の中の音楽を聴き、その音楽表現の同行者である。遊戯療法の中での音楽について、精神と身体、リズム、メロディ−をキーワードに考えてみたい。

【リズムと身体を生み出すための心理療法:遊びのある関係について】妙木浩之(東京国際大学)
シンポジウムをお引き受けしておいて申し訳ないのですが、私は音痴ですしほとんど音楽の素養がありません。このシンポジウムではその代表として、音楽はなく、ぎこちないけれども一定のリズム、 そのための身体の準備としての精神分析家の在り方についてお話したいと思います。心理療法は一週間の間に刻まれるリズムです。だから音や声が生み出される前の沈黙の時間が生み出されるのも、 この一定のリズムによって確保されている散ろう構造のおかげです。身体がリズムを刻むために、治療関係の一例をあげて、そこに遊びがある時とないときの違いを論じ、患者と治療者の間に一定の距離が時間をかけて確立することが、地味だけど、心理療法の枠組みとなっていくのです。

【遊びとパフォーマンス:可能性を実現する】森岡正芳(神戸大学大学院 人間発達環境学研究科)
遊戯療法は対人支援や心理療法の共通基盤をなすものである。この点をパフォーマンスという観点から検討してみたい。遊戯療法では、存在しているがまだ形にならないものを、遊びを通して形にしていく。 パフォーマンスは、未形成のパワーやエネルギーそしてインスピレーションを、私たちの感覚の中にもちこみ形にすることなのである(Anthony Rooleyコンソートオブミュージック)。 シンポジウムでは、遊びの即興性を治療的に活かすパフォーマンスの環境(performative environment)をどのように生み出すかについて、ともに考えてみたい。ベテランのセラピスト達は、遊びながら遊びを作っていく。 カウンセリングにおいても同様で、どちらかが誘導するのではなく会話をともに作っていくところが、パフォーマンスの本質である。 New York で、East Side Instituteを主催し、パフォーマンスを基本に社会療法を実践するホルツマンの考え方などを参考に、話題提供してみたい。

第2日目 2014年7月20日(日)
※会場はすべて星陵会館です。

公開シンポジウム2

16:00~18:00

テーマ 「子ども達は今、3.11から3年が過ぎて」
シンポジスト 今泉 岳雄 (東北文教大学)
  田村 良江 (前福島市立瀬上小学校長)
  宮前 理 (宮城教育大学)
指定討論 宇田川 一夫 (東北福祉大学)
  馬殿 禮子 (関西国際大学名誉教授)
司会
安島 智子
(このはな児童学研究所)

【児童館における遊戯療法】 今泉 岳雄(東北文教大学)
遊戯療法学会による震災支援として、仙台市の宮城野区にある児童館に2011年の6月より伺うようになり、3年余りが過ぎました。 最初の年は、保育所や幼稚園で震災を体験し、不安な中で転居や小学校へ入学し、児童館に入所した多くの新一年生がいました。余震も続く中で児童館の雰囲気は落ち着かないものでした。 時間の経過とともに生活も落ち着きを見せてきましたが、個々には沿岸部での悲惨な津波体験などで傷を抱えたまま、この児童館の近辺へ引っ越して来る子もいまだ見られます。 また、震災を契機に抱えていた家庭内の問題が顕在化し、子どもが苦しんでいる例もあります。 このような経緯の中で、私たちは子ども達と遊戯療法を介して関わってきました。事例を紹介しながら、子ども達に対し、遊戯療法がどのような役割を果たしたかを考えてみたいと思います。

【復興への提言】田村 良江(前福島市立瀬上小学校)
あの東日本大震災から四度目の春を迎えて、五月の風に青葉若葉が揺れるのを見ていると、福島市に住む私は、何事も無かったかのように感じることがある。 しかし、ニュースや新聞に震災関連記事が耳や目に入らない日は一日もない。 言うまでもなく、福島県民が東日本大震災と原発事故により失ったものは計り知れない。特に、家や田畑だけでなくふるさとの絆・文化・にぎわいなど。 かけがえのないものを無くした浜通りの被災された皆さんのことを思うとき、このまま手をこまねいていてはいけないと強く思う。 福島県民として英知を働かせ、震災以前に戻すのはもちろん、震災前よりも魅力ある福島県に生まれ変わることに少しでも力を尽くしたいと考える。 今年四月、三十八年間勤めた教員を定年退職した。三年前の二〇一一年三月一一日の東日本大震災以降、生活が一変した。この年の修・卒業式を挙行することができないだけでなく、 多くの避難児童の受け入れや支援物資・支援活動への対応、放射線の健康リスク問題や心のケアなどへの対応等々で、これまで経験したことない日々。 それでも、「学校は復興の最大の拠点」を合い言葉に、目の前の子どもたちのために最善を尽くす毎日でした。 この三年余りを振り返り、いろいろな人や団体、国から様々な支援や援助をいただきながら、これまで福島県民一人一人がそれぞれの立場で一生懸命に生き抜いてきたと思う。 そして、震災の記憶が薄れて来つつあるこれからが、福島県民による本当の復興が始まる時だと考える。福島の美しい自然、おいしい果物・農産物、豊かな文化や人の温かさなど、 他地域では手に入らない、福島だから味わえるよさをアイテムに、より一層魅力ある福島県を創るのは今。これこそが、支援や援助をくださった方々への御礼になるのだと思う。

【「原発」と こころの健康 】宮前 理(宮城教育大学)
震災から3年が過ぎた。「原発問題」は子どもたちを守り支えるために、また大人たち自身のために今改めて考えておかねばなければならないことだと思う。  2014年3月、体調悪化、過労などによる「震災関連死」数が岩手、宮城、福島ほか10都道府県で少なくとも3032人認定され、その9割以上が66歳以上である(阪神大震災では919人認定)。 そのうち、東京電力福島第一原発事故の影響を受け現在も13万人が避難生活している福島県民が1664人を占め、同県民の津波、地震による直接死者1607人を超えた。原発による避難指定地域はゴーストタウン化し、長期化する被害の深刻さは計り知れない。 当該原発の廃炉まで一日5000人がかかわり少なくとも40年を要する。汚染水が毎日400トンずつ増え続け、既に1000トンタンクが一千基を超えている。一方、こうした現実に直面し、並行して実は私たちのこころの大切な部分が蝕まれている事実にも気づかされる。 このような状況下で2014年4月、新たなエネルギー基本計画として原発再稼働の方針が閣議決定された。原発の「安全」は科学的な数値で保証されるものではなく、これにかかる「人間」の問題であるという観点から考えてみたい。

本大会の「基調講演」と「シンポジウム」(1日目・2日目)は一般公開されます。お近くで興味のある方にも是非ご案内ください。